サンスクリット語学習記録 第15回
今回は動詞をもとにつくられる準動詞のうち、副詞の役割を果たす「不定詞」と「絶対詞」を見ていきます。
不定詞「~すること」= Infinitive = Inf.
不定詞は「~するため」「~すること」といった目的や目標、意欲を表す。
(cf. 英語でも「to + 動詞の原形」でつくる不定詞は~ingで作る動名詞に比べて「未来志向」といわれる)
・tum をGuṇa化した語根もしくはそれに結合母音の i を加えた語幹につけて作る。
①√ + tum → Inf.
②第2次活用動詞の語幹 + tum → Inf.
(例)√dā(与える)→ dātum
√bhū(なる)→ bhavitum
√kṛ(為す)→ kartum
√yuj(繋ぐ)→ yoktum
√gam(行く)→ gantum(gam + tum だが連声で m → n になる)
√cur(盗む)→ corayitum
√grah(つかむ)→ grahītum
※不定詞は本来能動/受動の区別がないが、受動態の動詞が続く場合は受動の意味を持つ。
(例)sa mārayitum nīyate(彼は殺されるために連れていかれる)
←√mṛ(死ぬ)の使役の不定詞+√nī(連れていく)の受動態
※意図を表す語(kāma, manas)とともに「~する意図がある」という合成語(所有合成語)をつくる。その場合は末尾の m が消えて -tu になる。
(例)svaptukāma(眠ることを欲している)
vaktumanas(言う意志がある)
絶対詞「~して、…」 = Gerund = Gd.
絶対詞は「同一の動作者によって行われる2つの動作のうち先行するもの」を表す。
(「Aして、B」のAのほうの動作)
・tvā/ya/tya のいずれかをつけて作る。
①接尾辞 tvā
・tvā は弱化した語根にそのまま、もしくは結合母音の i のみ加えた弱語幹につく。
①√ + (i) tvā → 絶対詞
(例)√yaj(崇める)→ iṣṭvā
√vac(言う)→ uktvā
√gam(行く)→ gatvā
√man(考える)→ matvā
√sthā(留まる)→ sthivā
√bhū(なる)→ bhūtvā
※第10類、使役および -aya で終わる意欲活用形は -ayi に変えてから tvā をつける。
(例)√cur(盗む)→ corayitvā
√vac(言う)→ 使役 vācaya(言わせる)→ vācayitvā
②接尾辞 ya
・ya は接頭辞、副詞、名詞を前分としてできた合成語につく。
②接頭辞/副詞/名詞 + √ + ya → Gd.
(例)pra-√vac(告白する)→ procya(※pra+uc+ya、連声でa+u→o)
sam-√bhū(合う)→ saṃbhūya
ava-√tṝ(降臨する)→ avatīrya
ā-√pṝ(満ちる)→ āpūrya
ā-√dā(取る)→ ādayā
③接尾辞 tya
・短母音で終わる語根は結合子音 t を加えて tya にする。
③接頭辞/副詞/名詞 + √(-短母音) + tya → Gd.
(例)alam-√kṛ(飾る)→ alaṃkṛtya
pra-√i(死ぬ)→ pretya
vaśe-√kṛ(服従させる)→ vaśekṛtya
※m/nで終わる語根は m/n を省略して tva をつけてもよい(それのみの動詞も)。
(例)ā-√gam(来る)→ āgamya/āgatya
ava-√man(侮る)→ avamanya/avamatya
vi-√tan(いきわたる)→ vitatya のみ
ni-√han(撲殺する)→ nihatya のみ
※語根の母音aが長母音化できるものも。
(例)ni-√khan(埋葬する)→ nikhanya/nikhānya
ā-√jan(出産する)→ ājanya/ājānya
※第10類や aya で同形になる語幹は、その語根が短音節のまま語幹をつくる場合 aya の最後の a を取って ya をつけて ayya にする。
長音節の場合は、aya ごと取り去って ya を加える。
(例)sam-√gam → 使役 saṃgamaya(集める)→ saṃgamayya ←短音節の例
pra-√budh → 使役 prabodhaya(覚ます)→ prabodhya ←長音節の例
※接尾辞 am も絶対詞を作れる。
(例)√ci(積む)→ cāyam
√kṛ(為す)→ kāram
√vid(知る)→ vedam
※現在分詞「~しながら」との違い
① sa bhujian kathayati(彼は食べながら語る)
…現在分詞:「食べる」と「語る」が同時進行
② sa bhuktvā kathayati(彼は食べ終わって語る)
…絶対詞:「食べる」が終わってから「語る」が行われる
まとめ
絶対詞には細かいバリエーションはあるものの、末尾部分はほとんど -tvā や -(t)ya となるので見つけるのは難しくありません。
主語の性・数や時制などによる動詞の語形変化をさせなくてよいので書き手の側も使いやすいのか、結構な高頻度で登場します。
不定詞は絶対詞ほど頻繁には出てこない印象ですが、どちらの用法も語形変化が複雑なサンスクリットにあって副詞(変化を考えなくてよい)として出てくるので、読解演習中はありがたい存在…