サンスクリット語学習記録 第12回

今回は受動言(受動態)です。

意味は英語や日本語でもなじみのある受身「~される」になります。

 

動作の対象が他者になる為他言 = [P] や対象が自分になる為自言 = [Ā] と並ぶような意味合いになりますが、変化が大きく別の動詞のように活用するので個別でセクション分けされています。

 

 〇現在組織の受動言

・現在組織の受動言は、語根にyaをつけてつくる。活用は [Ā] のみ(意味上当然と言えば当然?)

 受動言:√+ ya + 語尾(第4類動詞 [Ā] )

 

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語根末の音が

・ā で終わる語根:2種類ある

 ① āのまま…(例)√jñā(知る)→ jñāya, √pā(保護する)→ pāya など

 ② ī になる…(例)√pā(飲む)→ pīya, √dā(与える)→ dīya など

 

・i/u で終わる語根:母音が長母音になる

 (例)√ji(勝つ)→ jīya, √śru(聞く)→ śrūya など

 

・ṛ  で終わる語根:ri に変化。重子音の後ろではGuṇa化

 (例)√kṛ(なす)→ kriya, √smṛ(記憶する)→ smarya など

 

・ṝ  で終わる語根:īr に変化。唇音の後ろではūr になる

 (例)√śṝ(破る)→ śīrya, √pṝ(満たす)→ pūrya など

 

・語根末子音の前に鼻音がある場合:2パターンある

 ① 鼻音省略…(例)√daṃś(噛む)→ daśya, √bandh(縛る)→ bandhya など。こちらのほうが一般的

 ② 省略されない…(例)√nand(喜ぶ)→ nandya, √nindya(非難する)→ nindya, √han(殺す)→ hanya

 

現在以外の組織の受動言

・アオリスト、完了、未来では受動態は [Ā] と基本的に同じ。ただし、アオリストは特別な形をつくれる。

 

〇アオリスト

・語根の語頭にオーグメントの a, 語尾に i を付けると受動態アオリストの3人称単数形をつくる。

 pass.Aor.3rd.sg:a + √ + 語尾 i

 

・母音で終わる語根と単子音 + a + 単子音の場合:Vṛddhi化

 (例)√nī(導く)→ anāyi, √lū(断つ)→ alāvi, √kṛ(なす)→ akāriなど

 ※√jan(生まれる)→ ajami, √vadh(殺す)→ avadhi など例外も

 

・単子音の間にi, u, rをはさんだ語根:Guṇa化

 (例)√diś(示す)→ adeśi, √budh(覚る)→ abodhi, √dṛś(見る)→ adarśi など

 

・ā で終わる語根に:y を挿入する

 (例)√dā(与える)→ adāyi など

 

※全ての母音で終わる語根および √grah, √drś, √hanは3人称単数以外で iṣ-アオリストの [Ā] を受動の意味で使える

 (例)√nī(導く)→ anāyiṣ, √lū(断つ)→alāviṣ, √grah(掴む)→ agrāhiṣ

    √dṛś(見る)→ adarśiṣ, √han(殺す) → aghāniṣ など

 

〇その他の受動言

・複合完了:√kṛ, √as, √bhū を必ず [Ā] で用い、受動を表す

・未来、条件法:未来の接尾辞 iṣya を付加して特別な受動形を作ることもある

 (例)√nī(導く)→ nāyiṣya (pass. Fut), anāyiṣya (pass. Cond.)

 

 

※動作主(英語の受動態でいうby)は具格 instrumentalで表される

 

受動態はやたらと出てくる(らしい)。

標識である ya は他の活用法でも出てくるから紛らわしそう…

サンスクリット語学習記録 第11回

2月上旬頃、サンスクリット語をやるにあたり大いに参考にさせてもらっていたまんどぅーかさんのサイトを見ようとしたところ、サーバーエラーと表示され閲覧できない状態が数日続きました。

www.manduuka.net

 

管理者の方がすでにお亡くなりになっているので、必要なメンテが追い付かなくなって閲覧不可となっている可能性を考えました。

そうであれば復活の望みは乏しいので、文法事項の重要度や学習上のTipsも交えながら平易にまとめてくれているサイトが見られなくなったと軽く絶望しました。

 

が、しばらく経って様子を見に行ったら元通り閲覧できるようになっていました。

 

私の閲覧環境や回線も含め何かしら原因による一時的な問題だったのでしょうが、「あんまりサボってんなよ」という警句だと思うことにします。

ちょうど思いっきりサボっている時期だったので…

 

 

さて前回の「完了」につづき今回は「未来」です。

 

〇単純未来 (simple future)

・未来を表す語幹は、語根にsyaを加えてつくる。

 sya の前に i が挿入されるもの(seṭ語根/veṭ語根)とされずにそのままsyaがつくもの(aniṭ語根)がある。

 未来形: √ + (i)sya + 語尾(第1種活用、第1語尾)[P] / [A]

 

・語根末の母音が弱音階 (i / ī / u / ū / ṛ / ṝ) ならGuṇa化する。

 

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 その他に

 (例)√gai(歌う) → gāsya

    √nī(導く)→ neṣya

    √bhū(導く)→ bhaviṣya  など。

 

〇複合未来 (periphrastic future)

・単純未来は幅広く未来を表すのに対し、複合未来は日時や期限を示すときによく用いられる。

・形式としては、√as を助動詞として用いる。具体的には語根に (i)tāをつけ、さらに√as の現在形を語尾のように付ける。但し、3人称では√as の要素をつけず、両数でārau, 複数で āras という語尾になる。

①√ + (i)tā + √asの現在形活用

②√ + (i)tārau(3人称両数の場合、[P][A]とも)

③√ + (i)tāras(3人称複数の場合、[P][A]とも)

 

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〇条件法 (Conditional)

・過去の時点における未来、主に実現性のない仮定をあらわすのに用いられる。

(現在→非完了過去と単純未来→条件法 の関係が同じ)

・現在から非完了過去をつくるのと同様、語根の頭に a をつけ第2語尾で活用させる。

 a + √ + (i)sya + 語尾 (impf)

 

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人称語尾の前にsyaが入っていそうなら単純未来かな?とあたりをつければよいので、過去やアオリスト、完了と違ってシンプルで助かります。

 

文章に書き記す内容としては過去や現在のことより少ないだろうからあんまり複雑にする必要がない、のかな…?

(完了やアオリストは時制でなくアスペクトですが、サンスクリットではあんまり区別されず過去を表すのに使われているらしいので、ざっくり同じような意味合いで理解してます)

 

濃いペンでノートを取ったら裏移りして写真が見辛いですね…次は鉛筆に戻します。

サンスクリット語学習記録 第10回

あけましておめでとうございます。

サンスクリット語をかじり始めて一年経ちました。

もうちょっと進んでいるはずだったんですが、自分が予想以上に怠惰だったということで仕方なく地道に続けたいと思います。

 

今回は「完了」です。

英語の have + 過去分詞でつくる現在完了は「何らかの形で行為の結果が現在に残っている」という意味がありますが、

どうもサンスクリット語の完了はあんまりふつうの過去 Imperfect とあんまり使い分けられてないらしい。

アオリストと同じく「なんとなく過去なんだなー」で行こうと思います。

 

完了形は「重字語幹」+完了語尾(第1、第2語尾と似ているがまた別の語尾)で作ります。

強語幹と弱語幹の区別があります。

 

〇重字について

 語根の頭の音(に近い音)を重複させて頭に音節を付けて作る語幹を重字語幹(重複語幹)と言います。

 違うんだけど「どもる」みたいなイメージで理解してます。

 

・子音で始まる語根は、第3類動詞で出てきた作り方なので再掲します。

 

 ① 有気音はそれに相応する無気音 (ch→c, th→t...)

 (例)√chid(絶つ)→完了 cicheda, √dhā(置く)→ 現在 dadhāmi

 ② 喉音はそれに相当する無気音 (k / kh→c, g / gh / h→j)

 (例)√khan(掘る)→完了 cakhāna, √hā(行く)→ 現在 jahāmi

 ③ 語根が複数の子音ではじまる場合、最初の子音に基づく

 (例)√dru(走る)→完了 dudrāva, √kruś(叫ぶ)→完了cukrośa

 ④ 上記③の最初の子音が歯擦音の場合、2番目の子音に基づく

 (例)√spṛś(触れる)→完了 parparśa, √sthā(留まる)→ 完了 tastha

 ⑤ 重字音節の母音は a を使うことが多いが、語根が i/u系列なら対応することも

 (例)√krī(買う)→完了 cikrāya, √kup(怒る)→完了 cukopa

 

・母音で始まる語根は基本的にその母音で作る

 (例)√ad(食べる)→ ād, √ap(得る)→ āp

・i/u は強語幹のとき iy/uv にを使う

 (例)√iṣ(望む)→ 強語幹:iyeṣ, 弱語幹:īṣ, √uṣ(焼く)→ 強語幹:uvoṣ, 弱語幹:ūṣ

・語頭の a に2つ以上の子音が続くときと語頭が ṛ である語根は ān を使う

 (例)√arc(尊ぶ)→ ānarc, √ṛdn(栄える)→ ānardh

・ya/vaで始まる語根は i/u で重字させる

 (例)√yaj →強語幹:iyāj/iyaj, 弱語幹:īj √vac →強語幹:uvāc/uvac, 弱語幹:ūc

 

〇活用語尾

こうして作った重字語幹に、完了形専用の語尾がつきます。



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強語幹は [P] の単数のみで使います。

 

〇いろんな完了語幹のつくりかた

・子音で始まる語尾は、語幹との間に i を挿入することが多い。

 

 (例)√bhid(破る)→ 1st. du. [P] は bibhidiva

    √nī(導く)→ 2nd. sg. [P] は ninetha/ninayitha

 3rd. pl. [Ā] の語尾 re には必ず

 2nd. sg. [P] の語尾 tha には入れないことが多い

 

・語頭と語末が子音である語根で、中間の母音が長い場合(or 後ろに二重子音)は、強語幹と弱語幹の区別がなくなる

 =語幹の形がいつも同じ

 (例)√mīl(瞬く)→ mimīl, √bandh(縛る)→ babandh

    √nind(非難する)→ ninind, √prach(問う)→ papracch

 

・中間に i/u/ṛ を持つ語根は Guṇa化して強語幹をつくる

 (例)√bhid(被る)→ 強語幹:bibhed, 弱語幹:bibhed

    √puṣ(養う)→ 強語幹:pupoṣ, 弱語幹:pupuṣ

    √dṛś(見る)→ 強語幹:dadarś, 弱語幹:dadṛś

 


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・語根母音 a + 単子音の語根の場合

 1st. sg. [P] は強語幹が Vṛddhi化(長音階)することがある

 3rd. sg. [P] は強語幹で必ず Vṛddhi化する

 2nd. sg. [P] は変化しないことが多い

 弱語幹は語根母音の省略などでつくる。

 


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・同様に語根母音を省いて弱語幹をつくる語根

 (例)√khan(掘る)→ sg. 3rd. [P] cakhāna / pl. 3rd. [P] cakhnur

    √jan(生まれる)→ sg. 3rd. [P] jajāna / pl. 3rd. [P] jajñur

    √han(殺す)→ sg. 3rd. [P] jaghāna / pl. 3rd. [P] jaghnur

 

・単子音 + 単子音の形で、重字に代用の子音を使わなくてよい(語根の子音をそのまま重字に使える)ものは、語根を a → e に変え、重字を起こさないで弱語幹をつくる

 


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 同様に作る語根

 (例)√nad(ほえる)→ pl. 3rd. [P] nedur

    √pat(おちる)→ pl. 1st. [P] petima

    √yam(拘束する)→ pl. 3rd. [Ā] yemire

    √tan(拡げる)→ sg. 2nd. [P] tatantha/tenitha(結合母音 i が入る場合)

 

・ā, ai, au で終わる語根(ā or 二重母音)

 強語幹:1st/3rd. sg [P] で -au, 2nd. sg. [P] では末母音を ā/ī として活用

 弱語幹:母音で始まる語尾の前で語根末の母音が消滅する。子音で始まる語尾の前で は語根末母音が i になる。

 


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・i/ī/u/ū/ṛ/ṝ で終わる語根

 1. 強語幹で1st. sg. [P] で 母音がGuṇa化もしくはVṛddhi化。2nd. は Guṇa, 3rd. は

Vṛddhi化する。

 (例)nī(導く)→ 1st. ninaya/nināya, 2nd. ninetha/ninayitha, 3rd. nināya

 2. 弱語幹 ṛ で終わり、重子音で始まる語根と多くの ṝ で終わる語根では母音が Guṇa、それ以外では平韻



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コーヒーこぼしたシミもちゃんと反映する優秀なスキャナアプリ。 

 

・特別な語根


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〇複合完了

 aya を必要とする語幹(=第10類動詞、使役活用法、名称詞由来動詞)を対象とする。

 3種類あります。

  ① aya を伴う語幹 + ām + √kṛ(なす)の 完了形 [P]/[Ā]

  ② aya を伴う語幹 + ām + √as(ある)の 完了形 [P]

  ③ aya を伴う語幹 + ām + √bhū(なる)の 完了形 [P]

 

 基礎的な動詞を標識として使うの、英語の現在完了で haveを使うのと似てますね。

 

 

以上です。 

種類が多くて厄介ですが、完了語尾が特徴的なので「完了だ!」ってわかれば良いことにしておきます。

 

今年は早いうちに短い文章を読み始めたいと思っていますが、どうかなー。

サンスクリット語学習記録 第9回

動詞の学習の一番最初に出てきたように、動詞は語幹の作り方によって4種類の組織に分類されます。

 

1) 現在組織(現在語幹に基づく)

 ・直説法現在 (Present = Pres.)

 ・直説法過去 (Imperfect = Impf.)

 ・願望法 (Optative = Opt.)

 ・命令法 (Imperative = Impv.)

2) アオリスト組織(アオリスト語幹に基づく)

 ・直説法アオリスト (Indicative Aorist = Aor.)

 ・祈願法 (Precative = Prec.)

3) 完了組織(完了語幹に基づく)

 ・直説法完了 (Indicative Perfect = Pf.)

4) 未来組織(未来語幹に基づく)

 ・直説法未来 (Indicative Future = Fut.)

 ・条件法 (Conditional = Cond.)

 

前回までで現在組織が終わったので、今回はアオリストです。

アオリスト以下の3種は実際のところ出現頻度がかなり低いようで、教本の章立ても「現在以外の時制の組織」とまとめられ、練習問題もついていません。

ノート取りだけで終わってしまうと定着しにくいですが、それで困らない程度にしか使わないんだろうということにして進んでいきます…

 

※現在以外の組織、分詞、不定詞、絶対詞において、子音や y 以外の半母音で始まる語尾をつくるときに語根と語尾の間に i や ī を挿入するもの、しないもの、どちらでもよいものと語根に種類がある。seṭ語根、aniṭ語根、veṭ語根とそれぞれ名前がついたりしているが、読むだけならきっちり分類を覚える必要はなく「i が入ることもあるんだな」という程度でOK。

 

アオリストというのはもともと古典ギリシャ語の用語で、「その日のこと」を表す時制。

過去にその事象が一度起こったことのみを表し、その結果がどうなったかは限定されないので「不定過去」と呼ばれることもあります。

但し、サンスクリット語では実際のところ未完了過去や完了ときっちり使い分けられてないらしいので、なんとなく過去なんだなーと持っておけばよいみたい。

 

 

見た目の特徴は過去 (Impf.) と同じで、

①頭に a をつける

②第2語尾を使用する

の2つ。

語幹が現在組織と異なります(アオリスト語幹というのがある)。

 

現在組織に10種類あったように、アオリストにも7種類あります。

 

(1) 単純アオリスト

 (i) 語根アオリスト

  語根に頭字の a とそのまま語尾を付けるだけ


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 (ii) a - アオリスト

  語根と語尾の間に a が入る。4類の多く、1類・6類の一部がこの形。


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 (iii) 重字アオリスト

  重字語幹になる。√śri(赴く)、√dru(走る)以外は少ない。10類、使役活用、名称詞由来動詞など。


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(2) 歯擦音アオリスト

 (iv) s - アオリスト

  語根と語尾の間に s がつく。[P] で母音がVṛddhi、[Ā] でGuṇaになる。aniṭ語根はこの形。


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 (v) iṣ - アオリスト

  語根と語尾の間にiṣ(まれに īṣ) がつく。seṭ語根、veṭ語根はこの形。[P] で母音がVṛddhi、[Ā] でGuṇaになる。


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 (vi) siṣ - アオリスト

  語根と語尾の間に siṣ がつく。[P] しかない。ā で終わる単語が多い。


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 (vii) sa - アオリスト

  語根と語尾の間に sa がつく。a/ā 以外の短母音 i/u/ṛ が先行し、かつ ś/ṣ/h で終わる語根のみ。母音は変化なし。


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(3) 祈願法

 現在組織にあった願望法 Opt. のアオリスト版。受動態(未習)に似てるらしい。


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練習問題もやってないのできちんと理解できている気が全くしないのですが、形がImpf. に似ていて意味上もあまり区別されずに使われているのであれば、「なんか過去のことなんだな」くらいで読めてしまいそうではあります。

 

但し、アオリスト語幹の作り方を把握しておかないと語根にたどり着けず辞書が引けないので、上の7種の変化表をなんとなく眺めておくくらいは必要だろうなと思っています。

 

例えば上の変化表で出てきたみたく、alāviṣam という形から辞書を引くためには、

 ・頭字の a と一人称単数 [P] の語尾 am を取ってみる→ lāviṣ

 ・iṣ の部分が iṣ - アオリストの挿入部分ぽいので取ってみる→ lāv

 ・iṣ - アオリストの [P] なら母音が Vṛddhi化して āv に変化しているはずなので、平音に戻す→ lu またはlū 

みたいな手順を踏んで語根の √lū を復元しないといけないのです…

 

適用されている変化法則が理解でき、形も意味もピタッと合ったときはパズルが解けたような快感があります。

でもこれを読解に堪えうるスピードで行うにはやっぱり演習が必要…

サンスクリット語学習記録 第8回

「細々と続けている」と言えるのかどうかも微妙なくらい怠惰なペースで続けております。

 

動詞の現在組織の2グループ目です。

 

第2種活用:2、3、5、7、8、9類

 ・強語幹と弱語幹の区別がある。

 ・強語幹を用いるのは次の3パターン

 ① 直説法現在・直説法過去の単数 [P]

 ② 命令法の一人称すべて [P], [Ā] 両方

 ③ 命令法単数3人称 [P]

 ・命令法 [P] 二人称単数の語尾は、母音で終わる語幹には -hi, それ以外には -dhi を付ける。

 ・願望法では [P] では yā、[Ā] では ī が語幹と語尾の間に入る。

 

各類の語根の作り方をまとめます。順番はやりやすいように変えています。

 

第2類

・語根に直接人称語尾をつける。強語幹は母音のGuṇa化(たまにVṛiddhi化)で作る。

(例)√dviṣ(憎む)→ 強語幹:dveṣ 弱語幹:dviṣ

 ※例外が多く、複雑な連声も多い。

 

第3類

・重字(重複, Reduplication)によって語幹をつくる。重字は先頭の音節をつけてつくる。

 ① 有気音はそれに相応する無気音 (ch→c, th→t...)

 (例)√chid(絶つ)→完了 cicheda, √dhā(置く)→ 現在 dadhāmi

 ② 喉音はそれに相当する無気音 (k / kh→c, g / gh / h→j)

 (例)√khan(掘る)→完了 cakhāna, √hā(行く)→ 現在 jahāmi

 ③ 語根が複数の子音ではじまる場合、最初の子音に基づく

 (例)√dru(走る)→完了 dudrāva, √kruś(叫ぶ)→完了cukrośa

 ④ 上記③の最初の子音が歯擦音の場合、2番目の子音に基づく

 (例)√spṛś(触れる)→完了 parparśa, √sthā(留まる)→ 完了 tastha

 ⑤ 重字音節の母音は a を使うことが多いが、語根が i/u系列なら対応することも

 (例)√krī(買う)→完了 cikrāya, √kup(怒る)→完了 cukopa

 

第5類

・語根に no を付けて強語幹、nu を付けて弱語幹をつくる。

(例)√su(搾る)→ 強語幹:suno 弱語幹:sunu

 ※母音で終わる語根は、v/mで始まる語尾の前でnuをnにできる

 ※母音で始まる語尾の前では連声で強語幹:nav, 弱語幹:nvになる

 

第8類

・語根に o を付けて強語幹、u を加えて弱語幹をつくる。

(例)√kṛ(する、為す)→ 強語幹:karo, 弱語幹:kuru

 ※第8類は √kṛ 以外はすべて語末が n なので、実質第5類と同じ

 

第7類

・語根末子音の前に na を挟んで強語幹、n を挟んで弱語幹をつくる。

(例)√bhid(破る)→ 強語幹:bhinad, 弱語幹:bhind

 ※n は語根末の子音と同化する。

 (例)√yuj(つなぐ)→ yunaj / yuñj, √piṣ(砕く)→ pinaṣ / piṃṣ

 

第9類

・語根に nā を付けて強語幹をつくる。弱語幹は子音の前でnī, 母音の前でnを付ける

(例)√aś(食べる)→ 強語幹:aśnā, 弱語幹:aśnī, aśn

 ※鼻音が語根にあるときは、鼻音をとってから na/nī/n を付ける

 (例)√bandh → badhnā/badhnī/badnh, √manth → mathnā/mathnī/mathn

 

変化表の例。

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名称詞のところで思った通り、動詞がある文は構造が推測しやすい印象。

人称語尾は毎回出てくるので大体覚えてきましたが、語幹から語根を復元するところで形が大きく変わっているのが難しいポイントです。

 

練習問題で各章10文ほど読んだだけの感覚ですが、数や人称・時制は出現頻度に差があるのでよく出てくるものを覚えておくだけで結構理解が早まります。

両数の動詞が出てくる文は少ない…逆に出てきたときは主語が2つの何かだと推測ができるのでかえって読みやすいくらいです。

 

 

今までやってきた言語では意識することがなかった連声規則が一番手こずっている箇所かもしれません。

動詞の変化で出てきがちな複雑な連声をノートと参考書をあちこちめぐって理解できた瞬間、数学の問題の解法を見つけたときに近い感覚。

 

 

現在語幹は一通りやりましたが、まだアオリストやら完了やら残っているので動詞の変化がもう少し続きます。

 

サンスクリット語学習記録 第7回

前回出てきた通り、動詞は2種10類に分類されます。

 

第1種活用:1、4、6、10類の共通点は以下の通りでした。

 ・語幹は a で終わる

 ・命令法 [P] 二人称単数で語尾なしで語幹をそのまま使う(上表参照)

 ・第2語尾 [Ā] 二人称両数の ethām など、e で始まる語尾の前では語幹の a は省略される

 ・願望法では語幹と語尾の間に ī が入る(語幹末の a と連声して e になる)

 

各種ごとに語幹の作り方が異なります。

数字の順番は無視して、とっつきやすい順で第6類から行きます。

 

第6類

・語根に a をつけて語幹をつくる。

(例) √tud(打つ)→tuda

 

第1類

・語根に a をつけて語幹をつくる。

・母音で終わる語根の場合、語根にあった母音がGuṇa(重韻)化 

(例)√nī(導く)→naya、√bhū(なる)→bhava

・短母音+単子音の場合、語根にあった母音がGuṇa化

(例)√ruh(成長する)→roha、√vṛdh(育つ)→vardha

・短母音に複数の子音がついたり、長母音や二重母音の時は母音が変化しない

(例)√krīd(戯れる)→krīda、√nind(嘲る)→ninda、√mūrch(失神する)→mūrcha

 

第4類

・語根に ya をつけて語幹をつくる。

(例)√tuṣ(満足する)→tuṣya

 

第10類

・語根に aya をつけて語幹をつくる。

・語根末が母音の場合や a が単子音に挟まれて語根末にくる場合、Vṛddhi化

(例)√taḍ(打つ)→tāḍaya

 ・i, u, ṛ に単子音がついて語根末にくるとき、それらはGuṇa化

(例)√cur(盗む)→coraya

・それ以外のとき、語根の母音に変化なし 

(例)√cint(考える)→cintaya

 

活用表の例。

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今まで「出てきたらそのうち覚えるっしょ」ということにして適当に流してきた母音の階梯と連声がとても重要になってきました。

たとえば第1類の例で出てきた√nī がどうしてnayaという一見かなり違う見た目の形になるかというと、

 

・√nī は母音で終わる語根なので ī が Guṇa化する。

※通常なら i, ī は Guṇa化すると e になるが、次に母音が来るときは ay という形になる。

・次に来る音は第1類の語幹をつくる a なので、ī は ay に変化して a と結びつき、語幹は nayaになる。

 

というプロセスを踏んでいるわけで、これを理解できないとnaya(実際には語尾がつくのでさらに違う形になる)を見ても辞書で√nī を探すことはできません。

いちいちあてはまりそうな法則を探しては試行錯誤するのは面倒な作業ですが、適用されている法則がクリアに理解できると数学の問題が解けたときに近い感覚があります。

 

 

 

 

 

せっかくサンスクリット語をやっているので、比較言語学の本を読んでみました。

比較言語学入門 (岩波文庫)

比較言語学入門 (岩波文庫)

 

 

 

サンスクリット語の例も豊富に出てきて、こうして多少なりともかじっているおかげで理解できる例もありました。

(全体的に「入門」のレベルではない気がしましたが…)

もともと 比較言語学的な点からサンスクリット語に興味を持ったので、そういう文脈で少しでも学習の効果を感じられるととやる気出ますねー。

 

反面、もっと豊富に例が出てくるギリシャ語もちょっとやりたくなってしまいました。

音韻法則だけでもなんとなく理解できるように、ギリシャ文字だけやって再読するのもありかなと思います。

 

 

と書いたところで、この本も買ってあったのを思い出しました。

 

 

ラテン語とギリシア語を同時に学ぶ

ラテン語とギリシア語を同時に学ぶ

 

 

サンスクリット語の変化表写し反復作業の合間に眺めようかな。

 

サンスクリット語学習記録 第6回

前回までで名称詞(名詞+形容詞)にケリを無理やりつけたので、動詞の活用に入ります。

 

名詞と形容詞は語幹に格語尾を付けて活用しましたが、動詞は語幹に人称語尾をつけて活用します。

辞書に載っている形である語根(√で表す)を変化させて語幹を作るので

「語幹(√+接尾辞)+人称語尾」となります。

 

名詞の格語尾には 性・数・格 がありましたが、動詞の人称語尾には数・人称・言(態)があります。

英語で言う「3単現の s」みたいな変化パターンがものすごくたくさんある感じです。

 

1. 数

 名詞と同じく単数・両数・複数の3つ。

 主語と動詞の数は一致する(ので文中でそれぞれを見つけやすくなるはず?)。

 

2. 人称

 一人称(話し手)、二人称(聞き手)、三人称(それ以外)があります。

 英語ではそれぞれ1st person, 2nd person, 3rd person と序数を使って表します。

 

3. 態(または言)

 Voiceともいいます。

 「能動態」「受動態」という言い方は英語でも出てくるやつです。

 能動態にあたるものがサンスクリット語では2つに分かれているため計3種になります。

・為他言 (Parasmaipada) 主語が動作主、動作対象は他者 能動態ともいい、[P] と表す

・為自言 (Ātmanepada) 主語が動作主、動作対象は自分 反射態ともいい、[Ā] と表す

・受動言 (passive) 主語が動作の受け手 受動態ともいう。[Ā] の語尾を用いる

 教材や先生によって用語が異なるようですが(やめてくれ)、 [P] と [Ā] で分かれば大丈夫そうです。

 

動詞はその動作がいつ行われたのか(時制 tense)、事実なのか仮定なのか命令なのか(法 mood)といった内容も表します。

それによって語幹をつくる方法がどうも複数あるようで、それぞれ4つに分けられ組織 (system)とよばれます。

1) 現在組織(現在語幹に基づく)

 ・直説法現在 (Present = Pres.)

 ・直説法過去 (Imperfect = Impf.)

 ・願望法 (Optative = Opt.)

 ・命令法 (Imperative = Impv.)

2) アオリスト組織(アオリスト語幹に基づく)

 ・直説法アオリスト (Indicative Aorist = Aor.)

 ・祈願法 (Precative = Prec.)

3) 完了組織(完了語幹に基づく)

 ・直説法完了 (Indicative Perfect = Pf.)

4) 未来組織(未来語幹に基づく)

 ・直説法未来 (Indicative Future = Fut.)

 ・条件法 (Conditional = Cond.)

 

願望法と祈願法って何が違うんだ…

 

この他にも、受動言・使役活用法・強意活用法・分詞などいろいろあるとのことですが、完全にパンクするので出てきてから覚えることにして今は忘れます。

 

人称語尾は大きく分けて第1語尾、第2語尾、命令法語尾の3種類があります。

 

第1語尾:直説法現在と直説法未来に使われる

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表内の (I) と (II) は動詞の種類によって使い分けられます。

後々出てくるのですが、動詞を現在語幹の作り方によって大きく2つに分けたときに第1種活用に分類される動詞に使用される語尾が (I), 第2種活用が (II) です。

 

第2語尾:直説法過去、願望法、直説法アオリスト、祈願法、条件法に使われる

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直説法過去だと動詞の頭に a がついてから第2語尾が使われたり、

願望法では語幹と第2語尾の間に ī などの音が挿入されたりと

他の要素と組み合わさって出てきます。

 

命令法語尾:命令法に使われる

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色を付けて囲ってある箇所は第2語尾と共通です。

 

 

動詞は活用の仕方によって第1類~第10類に分類されますが、現在語幹の作り方によって第1種と第2種に分けられます。

2種に分けたときのそれぞれの特徴(共通点)は下記の通り。

第1種活用:1、4、6、10類

 ・語幹は a で終わる

 ・命令法 [P] 二人称単数で語尾なしで語幹をそのまま使う(上表参照)

 ・第2語尾 [Ā] 二人称両数の ethām など、e で始まる語尾の前では語幹の a は省略される

 ・願望法では語幹と語尾の間に ī が入る(語幹末の a と連声して e になる)

 

第2種活用:2、3、5、7、8、9類

 ・強語幹と弱語幹の区別がある

 ・命令法 [P] 二人称単数の語尾は、母音で終わる語幹には -hi, それ以外には -dhi を付ける。

 ・願望法では [P] では yā、[Ā] では ī が語幹と語尾の間に入る。

 

 

今回は動詞が出てくる前置きみたいな部分だけになってしまいましたが、次から実際の変化表に入ります。

 

 

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サンスクリット語でこんなに伸びるとは…古代語のパワーを見た。

この suduha, durduha のもとになってる動詞√duh(乳を搾る)は動詞の活用例なんかでも出てきたりしていて(連声が複雑で厄介)、超初級レベルの学習者の私でもちょいちょい見かける、結構な基本語彙みたいです。

ということはやっぱり、サンスクリット語ができたころは酪農が人々の生活の中で大きな部分を占めていたりしたんだろうか…そういえばラッシーの国ですし。